……ブクブクブク。
ピンクに染めた唇から無数の気泡の粒々がこぼれる。
私はただポカーッと冷たい水の中を漂っていた。
まるで私の身体のラインをなぞるように水が後ろに後ろに流れていく。
思い切り眼を開けてみる。
……キラキラ。
黄色い光の筋が水中に幾重にもなって降り注いでいた。
私は深く深く身体を海底に沈み込ませる。
……ギュー。
鼓膜の奥で圧力の変わるのが分かる。
ふ、と眼の前に巨大な魚が現われた。
惚けた顔をした少年。
ぎょろりと遠くを見つめる眼差し。
不意に、彼の口がパクパクと開いた。
……あ、魚の声が聴こえる。
長いヒレがゆっくりと回った。
私の長く黒い髪も水面をぐるぐると回った。
……泣いているの?
彼の瞳の奥がキラリと光る。
けれど水の中だから彼が泣いているのかどうかは分からない。
……ブクブクブク。
私はそっと手を伸ばす。
彼はふわりと身をひるがえすと、さっさと海底に消えていく。
……ザパーン。
私は身体を起こす。
いつものアイボリィな浴槽。
シャンプーの匂い。
押し黙って整然と並ぶタイル。
朝の光。
鳥のさえずりが聴こえる。
……ブクブクブク。
少しだけ感じる空腹感。
……温かいコーヒーが飲みたい。
それにバターのたっぷり乗ったトースト。
手をバタバタとさせてみる。
軽やかに水飛沫が上がる。
……瞼が少しだけ熱い。
窓の向こう。
視線の先。
……ブクブクブク。
白んだ空に巨大な魚が浮かんでいた。