コラムコンテスト お題「コントラスト」(2001年)

古い遺跡と高い塔

「この国の見どころは、何といっても、我が国に多く保存された歴史的建造物ではないでしょうか」
 案内人はそう言って、旅人をひとつの遺跡に案内した。
「これは、今から一五〇〇年ほど前の建物ですね」
「あぁ、これはすごい」
 旅人は驚きの声を上げた。石を削って作った精巧な彫刻。壁面が多少欠けてはいるが、こんなにも綺麗に残っている遺跡は珍しい。
「この国には、この他にも何百万という貴重な遺跡が残っています」
 案内人は自慢げに言った。
「遺跡は歴史上、重要なものですから、それを守っていくことが我々の使命です」
「素晴らしいですね」
 旅人がそう言うと、案内人は満足そうに頷いた。
「ところで案内人さん、この国の人たちはどこに住んでいるんですか?」
 旅人はずっと思っていた疑問を口にした。さっきから、人の気配がない。
「みな、指定された数ヶ所の居住地域で生活しています」
「居住地域?」
 旅人は訊いた。
「ええ。既存の遺跡に影響を与えては困りますからね。歴史的景観を守るためには多少の犠牲はいとえません。何しろ、我々に残された過去の財産です」

「この国の見どころですか? それは我が国が誇る最新の建築技術に決まっていますよ」
 案内人はそう言って、旅人を国の中央にある塔に案内した。
「これはつい先月に建てられたばかりの塔です」
「あぁ、これはすごい」
 旅人は驚きの声を上げた。高さ何百メートルもある塔が、天空に向かってそびえ建っていた。こんなに高い建物を見たのは初めてだった。
「この国の建築技術は世界一ですよ。現在も、さまざまな建物が建設中です」
 案内人は自慢げに言った。
「技術開発を進め、未知なる可能性に挑戦していくことが我々の使命です」
「素晴らしいですね」
 旅人がそう言うと、案内人は満足そうに頷いた。
「ところで案内人さん、あれは何をやっているんですか?」
 旅人は目の前の光景に気がついて尋ねた。人々が建物を崩そうとしていた。
「あぁ、あれは半年ほど前に建てられた建物ですけどね。壊しているんですよ」
「壊している?」
 旅人は訊いた。
「ええ。もう時代遅れになった建物は不必要ですからね。新しい技術が開発され次第、新しいのに建てかえるんです。我々は未来に向かい日々進歩しているんです」