アバウトな創作工房

こらむらんど お題「(登場人物指定)マリア」(2004年)

乙女の煩悩、一直線!

「ねぇ、ユカリ。私には今、悩みがあるのさ」
 私は雑誌をめくる手を止めて顔を上げる。マリアの真面目な顔が目に飛び込んで来る。鼻筋のすっきりした色白で美人な女の子。マリアという名前がピッタリの女の子。雑誌の中のモデルなんかよりもずぅっとかわいくて、すらっと背も高くて、本当に羨ましい限りである。
「どうせ、マリア。アンタの悩みはパンピーのアタシには理解不能なのよ」
 私は言ってやる。彼女の卓越した思想を理解することは、通常の場合、常人には難しい。
「そうかなぁ」
「絶対にそう。間違いないね」
 彼女はちょっと不貞腐れたように唇を突き出して私の方を見る。わざとらしさがないから好感が持ててしまう。ちくしょうめ。
「私、どうやら安部君のことをスキになったみたいなのよ」
「あぁ、そう。良かったわね。ガンバレ」
 勝手にしてくれ、と思う。どうせ彼女は目立つのだから。安部君だって、彼女に告白されたら、満更でもないのだろう。そもそも「スキになったみたいなのよ」と説明する彼女の言葉は分析的で、全然、熱っぽくないのだから拍子抜けしてしまう。
「告白したらいいじゃない。マリアなら大丈夫だよ」
「そうなんだけどさ」
 彼女はためらうことなく頷いた。どうせ、どうせ。私なんか、この灰色の制服を着たらぼったりと重たくなってしまうのに。彼女は何故かステキに着こなしているんだからズルいというものだ。
「でも、考えてよ。私が安部君に告白するとするでしょ」
「あーはいはい」
 私はすでにどうでもよくなっている。
「で、結婚することになったとする」
「だからぁ、どうしてアンタはそこまで飛躍するかなぁ」
 私は思わず立ち上がる。そういうところが変なのだ、彼女。プロセスという概念が抜けている。
「でも、大事なことなのさ」
 彼女の瞳はどこまでも真剣だ。私は彼女の透き通るような瞳についつい吸い込まれてしまう。
「分かった、分かった。安部君とアンタが結婚する。おめでとう。あたしゃ、安室奈美恵を歌うわ。Can You Celebrate~♪」
「真剣なんだってば」
 マリアは怒った。
「メンゴ、メンゴ」
 私はヘラヘラと謝る。どうも、からかいすぎたらしい。彼女は頬っぺたをぷぅ、と膨らませる。そういう仕草も様になっているのだから、もぅ腹も立たない。
「で、私と安部君が結婚するじゃない?」
「はいはい、結婚しました」
 私の適当な相槌。
「そしたら、私、安部マリアになっちゃうのよ」
「はい?」
「アヴェ・マリア。どうしよう。困ったわ」
「知るかぁ!」
 私は読みかけの雑誌を放り投げた。

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