夕食を終えて、私は吉爺を連れて近くの幼稚園までやって来ていた。夜風に乗って微かに和太鼓の音が聞こえて来たからだ。
菊川町の盆踊り大会は夏の終わりに行われるのが慣行となっている。
今年も町内会をあげての盛大なお祭りとなったようで、辺りは多くの人で賑わっていた。
「いいもんだなぁ。懐かしい」
吉爺は目を細めて、踊る大勢の人を眺めている。
「そうですか?」
私はそう言って周りを見回してみた。櫓の周りで太鼓の音に合わせて皆が盆踊りを踊る様は、何となく今の時代に似つかわしくなく、どこか滑稽な感じがした。
東京音頭が終わり、スピーカーからドラえもん音頭が流れてきた。ああ、昔は私も踊ったなぁ。そう思いながら、ちょっと口ずさんで見た。何だか急に郷愁が湧いて来た。何だ、私も吉爺と一緒じゃないか。そう思ったら何だか可笑しくなる。
「楽しそうだなぁ、澄香さん」
吉爺が笑った。
「ええ。たまにはこういうのも良いもんですね」
しばらくここでこうしているのも悪くあるまい。そう思って、吉爺と二人、辺りをふらりふらりと歩いてまわった。焼き鳥の匂いに惹かれて立ち寄ってみたり、見知らぬアニメのお面を手に取ってみたり。
不意に曲調が変わった。
「おや。澄香さん、この曲は何だい?」
「最近若者の間で流行ってる踊り。パラパラっていうんですよ」
私は吉爺に教えてやる。
「ぱらぱら? 今はこんなものが流行っているのかい」
若者たちが手を上げたり下げたり忙しげにステップを踏んでいる。吉爺も面白そうに、そんな彼らの真似をしている。
不思議な空間だ。色んな世代の人々が、同じ空間で織りなす協和音。互いに互いを尊重し、許容し合っている感じがする。私も自然と踊りの輪に加わっていた。
■□■アトガキ(というよりおまけ)
若いなーって思う。今じゃ、こんな風にまじめに素直に作品は書けない。大学の講義ならではのまじめさみたいなのが感じられる。今の自分は、自分のカラーみたいなのが何となく分かってきてしまっているので。どうしてもそれを意識してしまう。作風とか。