ファイア・ドレイク

[ゲルマン伝承]

【言語】Fire Drake(ファイア・ドレイク)【英語】

闇夜を明るく染める炎の竜

全身を炎に覆われた竜が空を飛ぶ。この竜が空を飛ぶと、夜でも昼間のように明るくなったという。また、暗い空に奇妙な光が走るようなことがあると、この竜が空を飛んでいるのだと説明された。これはチュートン人(かつてデンマークを中心に活躍していた民族)の伝承に登場するファイア・ドレイクである。洞窟や墓場などに眠っている財宝を守護していると考えられた。Dragon(ドラゴン)といえば毒の息を吐き出すことが多いが、この竜は口から炎を吐き出す。ファイア・ドレイクは、その特性からか、炎の精霊、あるいは死者の魂だと解釈されることもあるようだ。熱い雲と冷たい雲が交わったときに生まれるとも言われる。イギリスには、各地にWill o'the Wisp(ウィル・オ・ザ・ウィスプ)やIgnis Fatuus(イグニス・ファトゥウス)のような鬼火伝承が残されている。ファイア・ドレイクも、同様の自然現象からうまれた怪物かもしれない。

現在のドラゴンの原型になった『ベーオウルフ』の火龍

8~9世紀頃に成立したイギリスの叙事詩『ベーオウルフ(Beowulf)』にもファイア・ドレイクは登場している。そこでは炎を吐き出す翼を持った竜として描かれている。日本では「火龍」などと訳される。この『ベーオウルフ』に登場する竜は、現在のドラゴンのイメージに非常に近い。トルキーン(John Ronald Reuel Tolkien)の『ホビットの冒険(The Hobbit, or There and Back Again)』に登場するSmaug(スマウグ)も、このファイア・ドレイクのイメージを踏襲していることが指摘されている。ファイア・ドレイクは、まさに現在のドラゴンの原型になっているといえる。