レムール

[古代ローマ伝承]

名称Lemur(レムール)【ラテン語】 pl. Lemures(レムレース)
特徴死者の霊。現世を彷徨う。

古代ローマの死者の霊!?

レムールというのは、古代ローマ人が信仰した死者の霊。複数形のレムレース(Lemures)という表現の方がよく知られているかもしれない。夜中に騒いだり、人を驚かせる悪霊のことを古代ローマではラルウァ(Larva)と呼んだが、レムールは生前に善い行いをした人間の霊だとされた。ただし、両者の間に厳密な区別なく、レムールであっても放っておけば地上に留まって悪さをすると信じられた。しっかりと埋葬されなかったり、心を込めて死者の国に送り出してもらえなかった死者の霊が地上に留まって彷徨っているとか、あるいは執念深くこの世に留まって彷徨っている霊というイメージである。

古代ローマ人は、毎年5月の9日、11日、13日になると先祖の霊であるレムールたちがやってきて祟ると考えていた。そこでレムールたちをもてなし、冥界へと追い払う儀式として、レムーリア祭(Lemuria)を執り行った。祭りの夜になると、家の主(あるじ)が裸足で外に出て、顔を背けながら、よく焼いた黒豆を投げて、レムールたちを戸外へと導いた。黒は大地の色で、レムールたちは黒豆を好むと信じられたのだ。

ちなみに、博物学者のリンネ(Carl von Linné)は、キツネザルが夜中にぞっとするような声を上げることから、この動物に「lemur」という学名を与えている。

《参考文献》