ナーガ

[ヴェーダ神話][ヒンドゥー教]

【言語】नाग〔Nāga〕(ナーガ)《コブラ》【サンスクリット】 【容姿】巨大なコブラ。頭が複数あるものもいる。あるいは上半身が人間、下半身が蛇。
【特徴】地下世界で暮らす。王を戴き、悪魔のような存在もいれば、神のように崇拝されているものもいる。

地下世界で暮らす蛇の一族!?

ナーガはインド神話に登場する蛇族、あるいは竜族のこと。ナーガनागは《コブラ》のこと。ナーガといえば上半身が人間、下半身が蛇の姿をした半人半蛇の一族をイメージする人も多いかもしれない。でも、古代インドでは、鎌首を持ち上げた巨大なコブラとして想像されることも多い。いくつも頭を持ったコブラなんかも、たくさん彫刻などに残されている。インド神話の世界観では、世界には7層の地下世界があるという。この地下世界の各層にナーガの王国があって、たくさんのナーガたちが部族に分かれて棲んでいて、नागराज (ナーガラージャ)と呼ばれる王を戴いているという。まさに蛇族といった感じ。性格の悪いナーガもいれば、半ば神さまとして崇拝されるようなナーガもいる。人間と結婚するナーガだっているのだ。

個性豊かなナーガたち!?

インド神話に登場するよく知られるナーガたちをいくつか紹介する。

原初の海を漂うアナンタ!?

ヴィシュヌ派の創世神話によれば、宇宙ができる前、この世界には原初の海があり、ヴィシュヌ神विष्णुがアナンタअनन्तと呼ばれるナーガの上に横になって眠っていたという。こうしてヴィシュヌが瞑想することで、ヴィシュヌ神の臍(へそ)からブラフマーब्रह्माが生まれ、ヴィシュヌ神の額からシヴァ神शिवが生まれ、ブラフマーによってこの世界は創造されたのだ。このアナンタは千の頭を持つナーガの王で、アナンタはヴィシュヌ神の上に頭を翳し、船としてだけでなく彼の日避けの役割も果たしていたという。

神々と悪魔族の綱引きの綱となったヴァースキ!?

「乳海攪拌」と呼ばれる神話にはヴァースキवासुकिという名前のナーガの王が登場する。神々は不死の飲料アムリタअमृतを手に入れようとする。そこでマンダラ山मंदारを引き抜いて巨大な亀(アクーパーラअकूपार)の背中に突き立てると、ヴァースキをぐるぐるとマンダラ山の回りに巻いた。そして一方を神々が、もう一方をアスラ族असुरが引っ張った。こうして神々は海をかき混ぜてアムリタを手に入れたという。つまり、ヴァースキはかき混ぜ棒の綱の役割を果たしたわけだ。

この世界を支えるシェーシャ!?

シェーシャशेषもアナンタと同じで千の頭を持つナーガの王。インド神話がイメージしている7層の地下世界のさらに下の世界に棲んでいて、千の頭でこの世界を支えているという。シェーシャがあくびをすると、地震が起こるのである。

王にちょっかいをかける狡猾なタクシャカ

タクシャカतक्षकも『マハーバーラタ』に登場するナーガの王で、非常に有名。あるとき、クル族の王パリークシットは森の中で「無言の行」を行っている修行中の聖者と出会う。聖者が質問に何も返事をしないことに腹を立てた王は聖者の首に死んだ蛇を巻きつけて帰った。聖者の息子がこの事実を知り、パリークシット王に「七日以内にタクシャカの毒で死ぬ」という呪いをかけた。パリークシット王はそれを知ると、急いで湖の真ん中に宮殿をつくらせ、宮殿に閉じこもって呪いをやり過ごそうとした。けれど、タクシャカは部下たちに僧侶に化けさせると、虫に化けて果物の中に潜り込み、まんまと宮殿に入り込んだ。タクシャカは巨大な赤蛇に変身して王に締め上げ、空へと舞い上がる。王はそのまま地面へと叩きつけられ即死、宮殿は炎上した。

また、タクシャカは乞食に変身してパウシャ王の王妃のイアリングを盗もうと画策している。タクシャカは地下世界へと逃げ込むが、結局、インドラの助けを借りたバラモンのウタンカによって取り返された。

このように、世界の創造に関わるナーガや、世界を支えるナーガのようなものもいれば、タクシャカのように人間界で活躍するナーガもいる。タクシャカなんかは虫に変身したり、乞食に変身したりと変幻自在である。

ナーガ、仏教世界にも取り込まれる!?

バラモン教、ヒンドゥー教に登場するナーガとナーガラージャだが、その後、仏教の世界にも取り込まれ、仏典を守護する存在となった。中国などでは「龍」、あるいは「龍王」と訳される。有名な八大龍王なども、もともとはヒンドゥー教のナーガを起源しており、ヴァースキ(和修吉)、タクシャカ(徳叉迦)などのナーガが、そのまま仏教神話にも登場している。特に龍王の1人、ムチャリンダは瞑想に耽る釈迦を大嵐から守ったという。ムチャリンダमुचलिन्दはとぐろを巻いて釈迦を包み、頭を広げて雨避けになったのである。

また、大乗仏教の体系を築いたとされる歴史上のインドの僧侶ナーガールジュナ(日本では漢訳された「龍樹」で知られる)に関する伝説にもナーガは登場する。ある伝説によると、マハーナーガमहानागという竜王が彼をナーガの王国に連れて行き、そこで大乗仏教の経典を授けたという。この経典はガウタマ・シッダールタ(釈迦)が、人間の側に受け入れる準備が整うまで預かっているようにとナーガたちに頼んだものだったという。