鬼車(グイチョーァ)
[中国伝承]
【言語】鬼車(鬼车)〔Guĭchē〕(グイチョーァ)【中国語】
九頭鳥(九头鸟)〔Jiŭtóuniăo〕(ジウトウニヤオ)【中国語】
鶬虞(鸧虞),鶬鸆(鸧鸆)〔Cāngyú〕(ツァーンユイ)【中国語】
【容姿】巨大なミミズクの怪物。9つの頭。翼が18枚あるとも。
【特徴】人間の魂を奪う。滴らせた血で不幸を招く。犬に弱い。光に弱い。うまく飛べない。
【出典】『嶺表録異』『齊東野語』など
頭が9つある変なミミズク、血を滴らせて飛翔する
鬼車は中国伝承に登場する怪鳥。九頭鳥ともいう。古くから中国のさまざまな文献に登場する。
劉恂『嶺表録異』(8世紀)では、鬼車は春から夏にかけて鳴きながら飛ぶのがはっきりとは姿は見えない。嶺外(中国南部からベトナム北部)に多く棲み、人の家に入り込み、魂を奪うのを好む。9つの首のうち、1つを犬に噛まれたため、血を滴らせている。その血を浴びた家は不幸に見舞われるという。
鬼車,春夏之間,稍遇陰晦,則飛鳴而過,嶺外尤多,愛入人家爍人魂氣。或雲九首,曾為犬嚙其一,常滴血。血滴之家,則有兇咎。
(劉恂『嶺表録異』より)
南宋代の『齊東野語』(12世紀)によれば、鬼車の首は10個あるという。しかし頭は9つだけで、1つ欠けていて、血が滴っているという。そして、あろうことか首ごとに一対の翼が生えているため、飛ぼうとすると18枚の翼が互いに競い合い、絡み合い、傷つけあって飛べなかったというから、意味が分からない。
身圓如箕,十脰環簇,其頭有九,其一獨無,而鮮血點滴,如世所傳每脰各生兩翅,當飛時,十八翼霍霍竟進,不相為用,至有爭拗折傷者。
(週密『齊東野語』より)
明代の『天中記』(15世紀)でも、鬼車の頭はもともと10個あったという。1つを犬に噛みちぎられたため、9つなのだと説明している。今でも人家に血を滴らせて害をなしているため、鬼車の鳴き声がすると犬をけしかけて追い払うという。
鬼車,晦暝則飛鳴鳴,能入人家收人魂气,一名鬼鳥。此鳥昔有十首,一首為犬所噬,猶言其畏狗也,亦名九頭鳥。
(陳耀文『天中記』より)
明代の『正字通』(16世紀)では「鶬鸆」として紹介されている。9つの頭を持ったミミズクのような鳥で、翼を広げると3メートルほど。昼間には目が見えず、夜になると見えるようになる。しかし火の光を見ると目が眩んで落下するとある。
鶬鸆,一名鬼車鳥,一名九頭鳥。狀如鵂鶹,大者翼廣許,晝盲夜暸虔,見火光輒墮。
(張自烈『正字通』より)
ちなみに『西遊記』には九頭虫(ジウトウチョーン)という妖怪が登場する。9つの頭を持った爬虫類のような怪物で、トンボのような翅で空を飛ぶ。祭賽国の金光寺の宝物を盗み、血の雨を降らせて仏塔を汚したため、孫悟空一行が退治に向かうことになったのである。途中、一行は二郎真君と出会い、一緒に九頭虫退治に向かうが、二郎真君の愛犬が九頭虫の頭を噛み切ったため、九頭虫はほうほうの体で北方へと逃げて行ったという。この『西遊記』の物語は鬼車の伝承をベースにしているものと考えられる。