レヤック
[バリ島伝承]
Leyak(レヤック)【英語】 Leak(レアク)【インドネシア語】 | |
容姿 | だらりと垂らした舌。馬の鬣(たてがみ)と鋭い牙を持った悪霊。 |
特徴 | 変幻自在で人間社会に溶け込む。血を吸い、子供の内臓を好んで喰らう。人間にとり憑いて操ったり病気を流行らせる。 |
島中に疫病をもたらす魔女ランダの手下!!
レヤックは、バリ島に伝わる呪術師だ。インドネシアのバリ島は、バリ・ヒンドゥーという特殊な宗教を持った国で、周辺の国々とは異なる独特の魔物などが伝わっている。レヤックもそのうちのひとつで、魔女ランダ(Rangda)に仕える魔術師たちである。ランダというのはぼさぼさの髪をはやし、舌をだらりと長く伸ばした魔女で、悪の権化として、災いをもたらす左手の魔術を好んで用いる。ランダはもともとは人間の女性で、恨みなどが積もり積もると、ついに魔女ランダになってしまうのだという。レヤックは、このランダの手下として、彼女の命令によって、人間にとり憑いてその人間を操ったり、島中に疫病や災害をまき散らしたりするのである。
レヤックは黒魔術の使い手で、人間社会に巧みに溶け込んでいるという。村には大抵、一人か二人はレヤックがいるとされている。それは近所のお婆さんかも知れないし、身内かもしれない。夜になると火の玉になって移動したりするという。バリ島では今でも「あのお婆さんはレヤックだ」などと囁き合ったりするという。鼻の下に溝がないなど、身体に奇妙なところがあって、それと分かるという。でも、正体が分かってもそれを他人に喋ってしまうと死んでしまうと信じられているため、たとえ分かったとしても、レヤックが死ぬまで黙っていなければならない。
レヤックは非常に変幻自在で、犬や豚、猿などの動物に変身する。吸血鬼のように眠っている人間の血を吸う。また、赤ん坊の血や内臓を好んで喰らうという。妊婦を探して襲うこともあるという。
また、バリの人々は、一見、普通の動物に見えるようなものでも、変なところを発見するとレヤックだと考えたという。牛が猛スピードで走ったり、鶏がおかしな振る舞いをすると、レヤックだと信じたのである。また、美しい女性の姿で、夜道で男性を誘惑することもあるという。
変身能力に長けるレヤックだが、彼らが化けるのは、何も人間や家畜といった生きているものだけではないという。新しいもの好きの彼らは荷車や自動車、モーター・バイクのようなものにまで化けることができるというから驚きだ。けれども、車輪が何となく本物とは違っていたりするなど、注意して見れば、ちゃんと見分けられるという。
《参考文献》
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『Truth In Fantasy 1 幻想世界の住人たち』(著:健部伸明/怪兵隊,新紀元社,1988年)
- 『魔女ランダ考 演劇的知とはなにか』(著:中村雄二郎,岩波現代文庫,2001年)