ルキフェル
[キリスト教][悪魔学]
Lucifer(ルキフェル)《光を掲げるもの》【ラテン語】 Lucifer(ルシファー)【英語】 | |
容姿 | 3つの顔、6枚の翼を持つ天使。 |
特徴 | 堕天使の長。地獄の王。もともとは熾天使(セラーフ)で、天使の3分の1を率いて神に叛乱を起こした。 |
出典 | 『イザヤ書』『神曲』『失楽園』ほか |
神に叛乱を起こした天使!?
ルキフェルはキリスト教の堕天使の長、悪魔を率いる地獄の王。英語読みだとルシファーで、こちらの表現の方が馴染みがある人も多いかもしれない。古代ローマ時代の神学者オリゲネース(Ὠριγένης)によって聖書の中から『発見』された悪魔だ。『発見』されたというのは、次のとおりだ。『イザヤ書』の14章12節から15節に、
ああ、お前は天から落ちた/明けの明星、曙の子よ。お前は地に投げ落とされた/もろもろの国を倒した者よ。
かつて、お前は心に思った。「わたしは天に上り/王座を神の星よりも高く据え/神々の集う北の果ての山に座し
雲の頂に登って/いと高き者のようになろう」と。
しかし、お前は陰府に落とされた/墓穴の底に。
とある。これはもともとバビロン捕囚を行ったネブカドネザル2世、アッカド語ではナブー・クドゥリ・ウツル(Nabû-kudurri-uṣur)の死を述べた部分だったが、オリゲネースはこの「明けの明星(Lucifer)」を悪魔と解釈したのである。以後、多くの神学者たちがこの文章の「明けの明星」を悪魔として解釈していった。
もちろん、本来のヘブライ語の聖書にも、ギリシア語訳聖書にも「ルキフェル」は登場しない。あくまでも聖書をラテン語に翻訳した当時の教父たちによって『発見』されたもの。ちなみに「明けの明星」というのは、普通は金星のこと。
ルキフェルは、もともとは天使の九階級の最上位である熾天使(セラーフ)の位にいた天使で、もっとも美しく偉大とされ、神に愛された。しかし、彼はそのことに慢心し、神の座を得ようと思った。そして3分の1の天使を率いて神に対して叛乱(はんらん)を起こしたのである。そのため、天界を追放され、地獄に堕とされたという。
ダンテ(Dante Alighieri)の『神曲(La Divina Commedia)』(13~14世紀)の中では、地獄の最下層部で氷漬けになっている魔王ルチーフェロ(Lucifero)が登場する。そこでは3つの顔、6枚の翼を持つ怪物として描かれている。3つの口で、それぞれユダ、ブルートゥス、カッシウスといった裏切り者たちを咥えている。また、ミルトン(John Milton)の『失楽園(Paradise Lost)』(17世紀)では、ルシファーは、神の偉大さを知りながらも、服従よりも自由に戦って敗れることを選ぶ、一種の英雄として描かれている。このルシファー像が後代のルキフェルに大きな影響を与えた。
《参考文献》
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)