モイラ
[ギリシア・ローマ神話]
Μοίρα(モイラ) pl. Μοῖραι(モイライ)【古代ギリシア語】 | |
特徴 | 運命の女神。三姉妹。 |
運命の三女神!?
モイラはギリシア・ローマ神話に登場する運命の女神。複数形はモイライ。もともとμοίραというのは《割り当て》という意味で、μοιράω(モイラオー)で《分け合う》といった意味の動詞になる。一人の人間に割り当てられる最大の関心ごとといえば寿命であったため、モイラは人間の生死と結びつけられるようになり、運命の女神になった。人間の誕生と終焉とを定める女神である。
すでにヘーシオドスの時代にはΛάχεσις(ラケシス)《配分するもの》、Κλωθώ(クロートー)《紡ぐもの》、Ἄτροπος(アトロポス)《変えられないもの》という3人の女神たちが登場している。運命を割り当てる女神、その運命を紡ぐ女神、そしてその運命を断ち切る女神である。このことからしばしば過去、現在、未来と解釈されることもある。また、その一方で単体でモイラと呼ばれる場合もあり、この場合には運命そのものを擬人化した女神さまである。
モイラとゼウスの関係はしばしば矛盾する。ゼウスがあらゆる運命を支配するように振る舞うときもあるが、たとえゼウスであっても一度定められた運命を覆すことができないものとして描かれるときもある。たとえば、ゼウスの息子サルペドーンがトロイア戦争でパトロクロスに殺される運命にあったとき、ゼウスはその運命を変えることはできなかった。けれども、一度だけ、この定められた運命にあらがった神さまがいる。それはアポッローンで、友人アドメトスの死すべき運命を変えるため、モイラたちに酒を振る舞い、酔っ払わせた上で、身代わりを立てれば死ぬ運命を回避させるという約束を取りつけることに成功したのである。この結果、妻のアルケスティスが身代わりを申し出たため、アドメトスは決められていたはずの寿命を変更して、長生きすることができた。
生死を司る女神モイラ!?
人間の生死を司る女神として分かりやすいのはメレアグロスの物語に登場するモイラたちである。彼が生まれて七日目にモイラたちがやってきて、炉にくべられている燃え木が燃え尽きたときに彼は死ぬと予言したという。そこで母親のアルタイアーは大急ぎでその木を拾い上げると箱にしまってしまった。このため、メレアグロスは死ぬことがなく、さまざまな英雄的な活躍をする。ところがあるとき、メレアグロスはいさかいから母親の兄弟を殺してしまう。この仕打ちに腹を立てたアルタイアーは箱から木片を取り出すと、これを炎の中に投じてしまう。木片は燃え尽き、メレアグロスはあっという間に死んでしまうのである。
モイラはゼウスとテミス(掟を司る女神)との間にうまれた娘であるとも、あるいはニュクス(夜の女神)の娘であるとも言われる。ローマ人はパルカイ(Parcae)をモイライと同一視した。
現代でもギリシアに残るモイラ伝承!?
モイラの伝承というのは、ちゃんと現代のギリシアにも引き継がれているらしい。どうやら、今でも赤ん坊が生まれると、三日目の晩に新生児室に現れ、その子供の運命を決定すると信じられている。だから、うまれた赤ん坊がちゃんとモイラたちに祝福してもらえるように、両親は三日目の晩に赤ん坊の揺りかごの横に彼女たちへの捧げ物を置いておくのだという。