モリガン

[アイルランド神話]

名称 Mórrígan(モリガン)《偉大なる女王》,Morrígan(モリガン)《恐ろしい女王》【アイルランド語】
Morrígu(モリグー),Morrighan(モリアン)【アイルランド語】
容姿カラスの姿で戦場を飛び回る死の女神。
特徴戦、死を司る女神。

アルスター神話の戦の女神!?

モリガンはケルト神話に登場する戦の女神。権力、戦、そして死と結びつけられた。戦場では狂気と死を撒き散らす女神で、戦の趨勢を支配し、女神に愛されたものが戦場で勝利を治める。トゥアハ・デ・ダナーンの神話に登場する。カハ・マグ・トゥレド(モイトゥラの戦い)でフォウォレ族と戦うトゥアハ・デ・ダナーンだったが、父神ダグザは水浴びをしているモリガンを見初め、愛人にした。このため、モリガンはトゥアハ・デ・ダナーンの味方をし、カラスの姿で戦場を飛び回り、フォウォレ族との戦いを勝利に導いた。戦いが終わると、エリン(アイルランド島)全土を飛び回って、神々の勝利を讃え歌ったという。

クー・フーリンとモリガン

『クアルンゲの牛捕り(Táin Bó Cuailnge)』の物語にも登場し、ケルトの英雄クー・フーリンに愛の告白をしている。けれども、メズヴ女王との戦いの真っ最中だったクー・フーリンに「恋愛をしている暇はない」と袖に振られてしまう。このことに腹を立てたモリガンは、ウナギ、オオカミ、そして骨のないウシに変身してクー・フーリンの戦いの邪魔をすることを宣言する。クー・フーリンもこれを返り討ちにするとともに、その傷は誰かに祝福されない限り癒えないと宣言した。戦士ロフと戦うクー・フーリン。宣言どおり女神はウナギの姿に変身して英雄の足に絡みつく。クー・フーリンがウナギを振りほどいている間にロフの攻撃を受けてしまう。さらにオオカミに変身したモリガンはウシを追いたてながら飛びかかってくる。クー・フーリンは石でオオカミの目をえぐるも、その隙にロフの攻撃を受けて傷つく。さらに女神が変身した巨大なウシが突進してくる。クー・フーリンは何とか前脚を斬りおとす。そんな女神の妨害を蹴散らして何とかロフを倒したクー・フーリンであった。そこに乳搾りの老婆が現れる。片目をなくし、半身不随の老婆である。クー・フーリンはロフとの戦いで体力を消耗していたため、老婆の搾るミルクを所望する。老婆は英雄の祝福と引き換えにミルクを与える。実はこの老婆もモリガンが変身したもので、英雄の祝福によって回復したモリガンは、カラスの姿になって飛び去るのである。その後はモリガンはクー・フーリンを陰ながら援助し、英雄が斃れたときにはその肩にカラスの姿になって留まり、クー・フーリンの死体を運ぼうとする兵士たちから彼を守ったとされる。

モリガンはハイイロガラスの化身で、カラスの姿で出現することが多い。灰色の長い髪をたなびかせ、灰色のマントを羽織り、両手に2本の槍を携えて出現するとも言われる。ときには真っ赤なドレスを身にまとい、2本の槍を携え、2頭の真っ赤なウマに牽かれた馬車に乗って戦場に出現する。このときは真っ赤な目を爛々と輝かせているという。

三身一体の女神:モリガン、マッハ、バズヴ

女神モリガンは、女神マッハ、女神バズヴと三身一体の女神であり、しばしばこれらの女神と混同される。マッハというのは真っ赤な髪、真っ赤なドレス、真っ赤なマントを身に纏い、一本足の真っ赤なウマに乗って戦場を駆け巡る。そしてカラスの姿になって戦場を飛び回り、戦死者の頭をついばむとされた。そのため、ケルトの戦士たちは倒した相手の首を槍に刺して門に飾り、マッハ女神に勝利を祈願した。バズブというのは《カラス》を意味する女神で、マッハ同様、カラスの姿で戦場を飛び回る。戦場に狂気を撒き散らすとともに、これから戦死するであろう人間の武具を川で洗っているという。このマッハやバズヴといった女神もモリアンの一側面とされ、三身一体の女神となっている。英雄クー・フーリンが戦場に向かうときに自らの武具を洗う女と出遭ったが、これがバズヴで、彼女の予言どおりクー・フーリンはその後の戦いで死んでしまう。これはモリガンがクー・フーリンに死の予言をして回避させようとしたのだとされる。

そしてモルガン・ル・フェへ……

女神モリガンは、アーサー王物語に登場するモルガン・ル・フェの前身とされている。確かにクー・フーリンを愛し、憎み、争い、そして最後には彼を守ったモリガンは、アーサー王と敵対しながらも、ときには守り、そして最後にアヴァロン島へと連れて行った女神モリガンと重なる。モルガン・ル・フェは9人姉妹の末娘で、アヴァロン島へアーサー王を導くときにも2人の従者を従え、3人で登場していている。これらは三身一体の女神のイメージを踏襲しているのだろう。