ナーイアス
[ギリシア・ローマ神話]
Ναιάς(ナーイアス)【古代ギリシア語】 pl.Ναιάδες(ナーイアデス) Naiad(ナイアド)【英語】,Naïad(ナイアド)【フランス語】 | |
容姿 | 美しい女性の姿をした精霊。 |
特徴 | 川や泉のニュムペー(精霊)。若い男性を水中に引き込むことも。 |
出典 | ホメーロス『オデュッセイア』ほか |
彼女たちが守護する泉の水は飲めばたちどころに病が治る!?
古代ギリシアでは、海や山、川や泉、森や谷などに精霊が宿っていると考えられていた。それがニュムペー(Νύμφη)である。みんな、若く美しい女性の姿をしていて、歌と踊りを好んでいた。彼女たちに対して供物が奉げられることもあり、下級の女神さまのような扱いを受けていた。
ナーイアスはギリシア・ローマ神話に登場する川や泉のニュムペーで、河神の娘たちだ。髪の毛をイグサで飾った美しい女性の姿をしているとされた。彼女たちが守護している泉の水を飲むと予言の力を与えられたり、病が治ったりする。しかし水浴びすることは彼女たちに対する冒涜であると考えられていて、勝手に泉に入ろうものなら、呪われて病気になったり、気が狂ったりする。
美少年、水中に引き込まれる!?
水場に棲む妖精にはよくあることだけど、ナーイアスも気に行った人間を水の中に引き込んでしまう側面がある。英雄ヘーラクレース(Ηρακλής)の従者だったヒュラース(Ὕλας)という人物は美少年として知られていたが、ミューシアのキオスという地で水を汲みに出掛けたときに、ナーイアスたちに気に入られてしまい、水中へと引き込まれて溺死した。ヘーラクレースは必死にヒュラースを探し、何度も彼の名前を呼んだ。ヒュラースも水中から何度も叫んだが、結局、ヘーラクレースに見つけてはもらえなかった。そのため、今でも川に向かって彼の名前を呼ぶと、木霊のように返事が返ってくるという。
ちなみに、これはイアーソーン(Ἰάσων)率いるアルゴー号が黄金の羊毛を探す旅の途中の出来事で、ヘーラクレースとヒュラースは一緒にアルゴー号に乗っていた。しかし、ヘーラクレースはこの地でヒュラースを探していたため、船に乗り遅れ、この冒険から脱落している。
地図:ナーイアスにまつわる地
イアーソーン率いるアルゴー号の航路を地図上に描いてみた(地図参照)。アルゴー号はテッサリアの都市イオールコスを出発し、途中、レームノス島やキュージコス、キオスに立ち寄り、ボスポラス海峡を抜けてコルキスを目指した。ヒュラースがナーイアスたちにさらわれたのはキオスという場所。
地図:ナーイアスにまつわる土地
また、ホメーロスの『オデュッセイア』の中にはナーイアスの住居に関する描写がある。イタケーの入江の奥にナーイアスの住まいがあったという。そこは広々とした洞窟で、酒瓶や織機などさまざまなものが置いてあって、なかなか豪華なのである。
《参考文献》
- 『シリーズ・ファンタジー百科 世界の妖精・妖怪事典』(著:キャロル・ローズ,監訳:松村一男,原書房,2003年〔1996年〕)
- 『ギリシア・ローマ神話辞典』(著:高津春繁,岩波書店,1960年)
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)