パウチ

[アイヌ伝承]

名称Pawci(パウチ),Pawci-Kamuy(パウチ・カムイ)【アイヌ語】
容姿素っ裸の男女。
特徴淫魔。淫乱の神。人間に取り憑いて淫乱にさせる。

浮気したのはパウチの所為なんです!?

パウチはアイヌ伝承に登場する淫魔だ。あるいはカムイ(Kamuy)《神》という語をお尻につけて、パウチ・カムイとも呼ばれるので、淫乱の神なのかもしれない。彼らの姿は人間と同じ。でも、普段は異界にあるススラㇺペッ(susu-ram-pet)という川の畔(ほとり)に棲んでいる。そこでは男女入り混じって素っ裸で踊っているという。男のパウチは男性器をブランブランさせ、女のパウチは女性器をパックリパックリさせているという。

彼らはときどき人間の世界にもやってくる。山野に出現し、人間の男女を踊りの輪に加える。人間に取り憑くこともあって、こうなると非常に厄介だ。取り憑かれた人間は突然、淫乱で騒々しい性格になるという。また、人間が浮気するようになるのもパウチが取り憑くからなのである。

パウチ・カムイを追い出すためには、殴ったり川に投げ込んだりと荒治療が必要である。6つの小屋を造って燃やし、憑かれた人間がその火をくぐるたびに棘のついた鞭で叩くという方法まである。そのくらいパウチを取り除くのは大変だということだろう。

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ちなみにアイヌ語で《性交する》という動詞はウコパウチコㇿ(uko-pawci-kor)と表現する。それぞれの単語はuko(ウコ)《互いに》、pawci(パウチ)《パウチ》、kor(コㇿ)《持つ》という意味で、すなわち「お互いにパウチを持つ」ということである。

層雲峡の断崖絶壁はパウチの砦!?

石狩川の上流にある層雲峡は、川の両側に断崖絶壁が続く不思議な場所だ。ここはパウチ・チャシ(Pawci-casi)《パウチの砦》とか、パウチ・カㇻ・コタン(pawci-kar-kotan)《パウチの造った場所》などと呼ばれている。パウチが造った砦とされている。淫乱な癖に、パウチは意外と器用なのだ。

この層雲峡には川を行く舟人を誑かす女神さまがいる。彼女もパウチであるけれど、あるとき、夜盗の一団が石狩川のカムイオペッカウシ(kamuy-o-pet-ka-us-i)《神さまが陰部をさらけ出すところ》と呼ばれる崖を通ったとき、踊っていたパウチに心奪われ、死んでしまったという伝説が残されている。

《参考文献》