豆腐小僧(トウフコゾウ)

[日本伝承][妖怪]

【言語】豆腐小僧(トウフコゾウ)【日本語】
【出典】『妖怪仕内評判記』ほか

突っ立っているだけの不気味な妖怪

雨がしとしと降る夕暮れに、道の脇に、編み笠をかぶった子供が、豆腐を載せたお盆を持って突っ立っている。豆腐小僧(トウフコゾウ)はただそれだけの妖怪である。何もしないで突っ立っているというから、かなり不気味で、据わりの悪い妖怪だ。

豆腐小僧は1770年代、江戸時代の後期に、突如、草双紙などの文芸界に登場した妖怪だ。その出自は未だによく分かっていないが、その初出は草双紙の黄表紙『妖怪仕内評判記』であるとされている。当時の江戸は、化け物ブームであった。草双紙のような文芸誌や歌舞伎などの演劇、浮世絵などの絵画に、さまざまな化け物が登場した。妖怪研究家アダム・カバットの言葉を借りれば、この時代の化け物は、人を楽しませる、娯楽のための化け物だった。豆腐小僧にはこれといった民間伝承はない。おそらく、商品として人工的に作り上げられた化け物として、文芸界に、挿し絵とともに現われた。大頭で、なかなかコミカルな表情をしているため、次第に江戸の庶民の間でポピュラーな存在になっていったようだ。京極夏彦はキャラクタ妖怪の元祖と言っている。

豆腐小僧

(北尾政美『夭怪着到牒』より)

化け物は通常、生臭い風を吹かせているというが、精進の化け物である豆腐小僧は生臭い風を吹かせないなどと説明される。これはなかなか洒落ている。また「固い(こわい)」という言葉から、豆腐は柔らかいのに「怖い」と洒落ている草双紙もある。後期になると、一つ目の豆腐小僧も多数、描かれるようになってくる。また、父は見越入道、母は轆轤首などと家族構成も説明されるようにもなっていく。物語にも多く登場し、驚いて豆腐をひっくり返してしまう豆腐小僧の絵も多数、残されている。豆腐小僧の結婚譚もある。豆腐小僧は、江戸の庶民に広く愛された妖怪だったのである。

彼が持っている豆腐は紅葉の葉っぱを貼りつけた紅葉豆腐であることが多い。妖怪研究家のアダム・カバットは、これは豆腐を「買うよう(紅葉)」にと勧める駄洒落であるとしている。京極夏彦も、豆腐屋の広告としてうまれたキャラクタかもしれないとしている。

豆腐小僧の豆腐を食べると身体からカビがはえてくる?

昭和以降になると、子供向けの妖怪の本に、豆腐小僧の新たな特徴がつけ加えられるようになる。曰く、豆腐小僧の持っている豆腐を食べると全身にカビが生える病気になるのだという。こう説明することで、豆腐小僧は、豆腐を勧めて人間を病気にする妖怪になった。豆腐を持って何もしないで突っ立っている妖怪よりは分かりやすい。据わりがよくなった。でも、その反面、本来の不気味さは薄れてしまったように思う。