縊鬼（イーグイ）

［中国伝承］

【言語】縊鬼（缢鬼）〔YìGuĭ〕（イーグイ）【中国語】
　　　　縊鬼（イキ、イツキ、クビレオニ）【日本語】

仲間を誘う首吊り自殺の幽霊

縊鬼（イーグイ）は中国の伝承に登場する鬼（グイ）の一種で、自殺した人間の幽霊。日本の鬼（オニ）とは異なり、中国では鬼（グイ）というのは幽霊のこと。自殺した人間というのは転生することも、あの世で官職に就くこともできないとされていて、首を吊った者は罰として、毎晩、自分が死んだ場所で、首吊り行為を繰り返し再現しなければならないという。たまたま近くに人間がやってくると、その人間にとり憑いて、自分と同じように首吊りをさせようとする。だから、不意に首が吊りたくなったときには、近くに縊鬼がいて、そいつの仕業なのだという。

日本でも縊鬼（いつき）などと呼ばれ、鈴木桃野の『反古のうらがき』という古典に登場する。その物語で、男は江戸城の喰違門で何者かに声をかけられ、「ここで首を吊れ」と迫られる。男は何故かその命令には従わなければならないという強迫観念にとり憑かれ、何の疑問も持たなかったという。ところが彼は別件で寄り合いに行く約束があったため、まずはそれに断りを入れてから戻ってくると約束して寄り合い所に向かった。そこで仲間たちに必死に説得されている間に、別の男が喰違門で首を吊ったという。その瞬間、彼は憑き物が落ちたように我れに返り、それからどうして自分が自殺しようなどと思っていたのか分からなくなり、怖ろしくなったという。まさに彼は縊鬼にとり憑かれていたわけである。

年々、日本も自殺者が増加している。誰かが首を吊れば、その者は縊鬼になる。縊鬼は仲間を増やそうと誘ってくる。自殺の連鎖は止まらない。この現代を象徴するような妖怪だと言えるかもしれない。